LPガスの法改正でどうなる?
2025年03月18日
経済産業省は、LPガスの商慣行是正を目的に、2024年4月2日、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則の一部を改正する省令を公布しました。
LPガスが普及するのに伴い、他社との競争が激化し、賃貸住宅のオーナーへ住宅に関連する設備を無償提供し、ガスの供給契約を得るという営業手法が広まりました。
具体的には給湯器やエアコン、TVモニターホン、Wi-Fi機器、宅配ボックスなど、設備の費用をLPガス事業者が負担をすることによって、アパートマンション等の集合住宅のオーナーは設備費用がかからないというメリットがありました。
設備の費用はその後、LPガスの料金に上乗せされ、その上乗せ分は入居者が支払うという状況が続いていました。
法改正は、長年続いてきた歪んだ商慣行を是正する目的があります。
法改正の内容と不動産業界で求められる対応
家庭で利用されるガスは、主に「都市ガス」と「LPガス」の2つですが、2021年度末の時点ではLP ガスが約 36%、都市ガスが約 44%、オール電化などが約 20%と都市ガスに次いで普及割合が高いことが分かります。32の道県ではLPガスの使用世帯数が50%を上回っており、全国の多くの家庭で使用されています。
設備費用の料金上乗せの背景の大元は、ガス会社がアパート経営者からの契約を獲得しようとしたことです。
過剰なサービスのツケを入居者に負担させていたため、消費者保護団体から上乗せ禁止を求める声が上がっていました。
その具体的な理由をチェックしていきましょう。
・ガスと関係のない設備費が上乗せされた
LPガス料金の上乗せ禁止を求める背景としては、ガス供給と関係のない設備費が上乗せされていることです。
エアコンやTVモニターホン、Wi-Fi機器、宅配ボックスなどはガス供給に一切関係ないものです。
無償貸与サービスの名のもとにガスと関係のない設備費がいくらでも上乗せOKになってしまうのは、誰が見ても不可思議な状況であるでしょう。
これでは、賃貸アパート経営者は際限なく経費を出さずしての設備充実が可能になってしまいます。
・オーナーの利益分が料金に上乗せされた
無償貸与サービスは、LPガス会社がアパートオーナーに対して行う契約です。
本来であれば、オーナーの利益分はガス会社が支払うものであるでしょう。
しかし、オーナーの利益分は入居者が支払うガス料金に含まれていたこともLPガス料金の上乗せ禁止を求める背景です。
都市ガスが整備されていない地域の賃貸物件では、プロパンガスを使用せざるを得ない状況です。
生活に必須のエネルギーでありながら、不透明な取引で消費者を食い物にしている実態が全国で問題視されています。
・LPガス料金の上乗せ禁止
これまでは、ガス供給に無関係ないエアコン、TVモニターホン、Wi-Fi機器、宅配ボックスなどの無償貸与サービスが横行していました。
その費用回収は事情をまったく知らない入居者のガス料金に転嫁させるという業界独自の慣行である実態があったのです。
2025年春より新しい料金制度へ移行しますが、既存契約については設備費用の計上自体は禁止せず、内訳表示の詳細化で料金の透明性を確保していく方針です。
LPガス料金の上乗せ禁止が実施されると、ガスとは無関係な費用については計上自体ができなくなります。
計上できないとなる費用はガス会社かアパートオーナーの自腹となるので、このような商慣行自体が終焉に近づいていくでしょう。
・「設備料金」の根拠提示が義務化
LPガス料金の上乗せ禁止が実施されたら、設備料金の根拠提示が義務化されます。
今までは明細なしでも、無償貸与サービスの設備費用を入居者から回収することが実質的に許されていました。
しかし、これからは基本料金と従量料金と貸与設備代金を区分して表示する三部料金制が徹底されていく予定です。
入居者に対して上乗せ分の内訳の提示が必要になるため、プロパンガス料金請求の透明性はより高くなるでしょう。
・オーナー自身で設備設置して家賃で徴収する
LPガス料金の上乗せは、アパートオーナーに多くのメリットをもたらすものでした。
設備費や修繕費などの経費削減ができるどころか、設備設置する労力もカットすることができていたのです。
しかし、LPガス料金の上乗せ禁止が実施されたら、三部料金制が徹底されていく予定です。
ガス供給に無関係な設備の設置はオーナー自身が行い、ガス料金ではなく家賃徴収していかなければならなくなります。
・違反者には罰金・罰則が科される
2025年春からLPガス新規契約の上乗せ禁止が実施されても、バレなければいいと考える業者やアパートオーナーが出てくるかもしれません。
いつの時代も、予想できない法の抜け穴が存在してしまうものです。
しかし、匿名でも可能な通報フォームが設置され、また違反者には罰金・罰則が科されるようになります。
事業者登録の取り消しといった重い罰則もあるなど、不法行為を許さない環境づくりが進んでいます。
・上乗せ禁止による賃貸オーナーへの影響
LPガス料金の上乗せ禁止が実施されると、賃貸物件のオーナーにはどのような影響が考えられるでしょうか。
これから賃貸経営に着手する予定の方、すでに上乗せによる経費削減の利益を享受しているオーナーはいったいどうなってしまうのでしょうか。
・家賃改訂の検討
LPガス料金の上乗せ禁止による賃貸オーナーへの影響は、家賃改訂が検討されることです。
これまでは設備の無償貸与で入居者のプロパンガス料金が高額になる分、家賃や駐車場代を少し安くしていたオーナーもいるはず。
しかし、これからは三部料金制の徹底により、ガス供給と無関係な設備のプロパンガス料金上乗せが不可能となります。
家賃徴収にスライドしていく必要性があるため、家賃改定の検討は避けられないものとなるでしょう。
・設備費の負担増加
設備費やメンテナンスを含めた修繕費の負担が増えることも、LPガス料金の上乗せ禁止による賃貸オーナーへの影響です。
これからは無償貸与サービスがなくなり、設備費や修繕費をガス会社に提供してもらえなくなります。
設備の充実した物件のほうが入居希望者に魅力的に映ることは確かです。
しかし、マイホームではなく賃貸物件なので、なかには設備を丁寧に扱ってくれない入居者もいます。
設備費から修繕費までオーナー側にたくさんの出費が予想されるでしょう。
・入居者募集に影響する
LPガス料金の上乗せ禁止で、入居者募集に影響することも賃貸アパートオーナーは覚悟する必要があります。
設備費や修繕費の多くがオーナー持ちとなると、設備投資ができなかったり、家賃を高くせざるを得なかったりするでしょう。
また、契約時には入居者にプロパンガス料金の提示を行う必要もあります。
入居者は設備と家賃と光熱費のバランスがよい物件を好むため、もしかすると空室率が上がってしまう恐れがあるでしょう。
・解約時は違約金発生リスクがある
LPガス料金の上乗せ禁止の実施が始まると、既存契約でも設備費の明細を出すことが求められます。
貸与設備がたくさんあると、入居者からの問い合わせや苦情は避けられないでしょう。
しかし、トラブル回避のためのガス販売途中解約は違約金の発生リスクがあります。
また途中解約するなら、切り替え先のガス会社を探す必要性も出てくるでしょう。
賃貸物件にすでに入居されている方で、LPガス料金が高いと感じた場合は管理会社やアパートオーナーに確認してみましょう。
LPガス料金の上乗せ禁止は、2025年春から始まります。
業界的には無償貸与契約をなくしていく方針であるため、三部料金制の徹底などアパートオーナーには経営の転換期ともなるでしょう。